2013年8月20日

GCSBって何?

最近、ニュージーランドのニュースを観ていると”GCSB Bill"がトップニュースとして報じられています。では、GCSBって何?まったく知らなくても大丈夫なの?そんなあなたがたった5分間で理解できるように解説してみました。


まずは語源から。

GCSB = Government Communications Security Bureau (政府のサイト

ジーシーエスビー。それまでは人々の関心すら惹かれませんでしたが、あのエシュロンで一躍脚光を浴びました(この白いボールがアンテナで通信を傍受しています)。


日本版ウィキペディアでは、政府通信保安局と訳されています。ところが、(サイトが紹介しているとおり)その実態は情報収集・通信傍受を行うための政府機関であり、ニュージーランドのニュースで報道されている内容と照らし合わせると、たんなる保安局とはほど遠い存在であることが理解できます。

さらに、このGCSBは、ニュージーランド政府の通信記録だけを扱う部署ではない、ということです。

もうひとつ踏み込んで言えば、この法案についてどう思われますか?という毎日のように街頭インタヴューが頻繁に報道されているのには確固たる理由があります。

それは、今回議論されているGCSBの改正法案が可決された場合、(政府機関により)あなたのプライヴァシーが侵害されてしまう可能性が高まることです。


疑問の本題に移る前に、英語版ウィキペディアを参照すると、こう記載されています。

The Government Communications Security Bureau (GCSB) is an intelligence agency of the New Zealand government. According to the official website the mission of the agency is to contribute to the national security of New Zealand by: providing foreign signals intelligence to support and inform Government decision making; providing an all-hours foreign intelligence watch and warning service to Government; ensuring the integrity, availability and confidentiality of official information through information systems security services to Government; and assisting in the protection of the national critical infrastructure from information-borne threats.

英語版では、政府が管轄するインテリジェントエージェンシーだ と明瞭に紹介されています。巷でよく知られている、アメリカ合衆国のCIAやNSAと同じ類です。上記に記載されているとおり、その業務内容も他の国々の インテリジェントエージェンシーとほぼ同じで(ニュージーランド政府のための)情報収集・通信傍受・諜報活動などが主な任務となっています。

2012/13年度の予算はおよそ63ミリオンニュージーランドドル、全国におよそ300人の職員が働いているようです(GCSBのサイトより引用)。情報システムに相当の予算をつぎ込んでいるか、高給取りの職員が多く勤務している職場であることが予想できます(笑)。


ここ最近、このGCSBで特に騒がれているのは次の3つです。

The appointment of Ian Fletcher: 2012年2月にGCSBのトップに任命されたのはイアン・フレッチャー氏。ところが彼は、ジョン・キー首相と同じ学校に在籍していた過去があり、この任命には(旧知の間柄ではないかという) その人選において裏があるのではないかと野党が非難していました。当初、ジョン・キー首相は彼が誰だか知らないと主張していましたが、のちにその発言 を撤回、同じ学校に在籍していたことは認めたものの、友人であることは強く否定しました。インテリジェントエージェンシーのトップの任命においてその二枚舌が通用するはずはなく、イアン・フレッチャー氏との間にどのような密約があったのか、いまだに疑惑の渦中にあります。

Illegal spying: インターネットを介したビジネス(Megaupload)を展開していたキム・ドットコム氏に対し該当サイトにおいて著作侵害の疑いがあることから(アメ リカ合衆国から依頼を受け)被疑者として諜報活動を開始・継続し、さらに強制捜査に至った事件で、警察が裁判のために提出した通信記録(国内の傍受により入手されたもの)など、その手法がす べて違法であったことが高等裁判所で認められ、GCSBの大失態として報じられました(さらに高等裁判所はキム・ドットコム氏がGCSBを提訴することも 認めています。明らかにやってはいけない捜査をGCSBが主導していたことが明確に認定されています)。のちに開かれた公聴会で、この強制捜査が実施され る以前に報告を受けていたのか問われたとき、ジョン・キー首相は それを強く否定し、キム・ドットコム氏の名前すら知らないとシラを切っていました。当時、キム・ドットコム氏はジョン・キー首相に近い(アクト党の党首と して連立政権を組んでいる)ジョン・バンクス氏へ5万ドルを超える献金を上納しており、さらに、キム・ドットコム氏が移民局から一目置かれていたことか ら、ジョン・キー首相がキム・ドットコム氏の名前さえ知らなかったのは事実に反するとして、野党から強い非難を受けていました。これについて、キム・ドッ トコム氏が公聴会で興味深い発言をしました: "I know you know me (あれっ?俺のこと知ってたはずでしょう、首相?)" ジョン・キー首相はこの発言の直後表情を崩しましたが、苦笑いのまま笑ってごまかしたのが印象的でした。このGCSBの大失態はのちに、その任務だけではなく彼ら自身の違法性が強く問われることになります。

GCSB Amendment Bill: (今回議論の渦中にある)GCSB改正法案です。Wikiでは;

On 8 May 2013, the National Prime Minister John Key introduced the Government Communications Security Bureau and Related Legislation Amendment Bill, which would extend the powers of the GCSB to enable it to collect information for other government departments including the New Zealand Police, Defence Force and the Security Intelligence Service. Previously, the GSCB had only been allowed to intercept foreign communications. The GCSB Amendment Bill would enable the spy agency to intercept domestic communications and thus spy on New Zealanders.

以前はGCSBがその業務として許されていたのは海外の通信傍受だけで、国内の通信傍受は認められていませんでした。ところが、このGCSB改正法案が施行されることにより、国内のスパイに対し、ニュージーランドポリス(警察)、デフェンスフォース(国防軍)、そしてセキュリティインテリジェントサーヴィス (SIS)が国内の通信傍受を実施することが認められ、その情報収集により犯罪や犯罪組織を監視することが可能になります。さらっと読むとこの改正法案に は何も問題がなさそうに見えますが、疑惑のひとつとして人々が懸念しているのは、誰が誰をスパイと特定するのか、という点で、ジョン・キー首相も明言を避 け言葉を濁しています。さらに彼は、人々はGCSBの改正法案よりも釣りで捕獲した鯛の1日当りの持ち帰り数を制限する改正法案(現行の9尾から3尾)のほうに強い関心 を示している(なので公でのGCSBの議論は必要ない)と主張するありさまで、GCSBに対し、さらなる疑惑が持たれています(今回彼のこの発言を見る限 り、彼が国民をバカにしていたのは否定できないように思います)。


本題に戻ります。このGCSBの改正案が適用される場合、人々の間でどのような不都合が生じるのか、具体的に推察してみます(注:実際どのような運用になるのかは施行されないとわからない点があるので推察にとどめます)。 冒頭で指摘した、あなたのプライヴァシーが侵害されるケースを想定してみます。

1.まずスパイが誰だかわかりませんのでスパイを特定するためにGCSBがニュージーランド国内のすべての通信を傍受します(お気づきのとおり、もしGCSBがこれをやるとすでに違法。なぜなら傍受以前にスパイが特定されていないため)。

2.怪しい通信が発見された場合、発信元・受信元、いずれの通信も傍受されGCSBが管理するデータベースに記録されます(これらは後に証拠資料として裁判所へ提出されます)。

3. 怪しい通信が発見されない場合、GCSBは検知する頻度や精度を上げていきます。つまり、メールやブログで日頃使っている何気ないキーワードやフレーズが その検索対象になる可能性が増えてきます。GCSBはそれらを使用している発信者・受信者を参考資料としてGCSBが保管するデータベースに記録します (もちろん、この時点ではまだスパイが特定されていないので、GCSBのこれらの業務は違法になります)。

4.幸運にもスパイが見つかりました。GCSBは容疑者を起訴するために以前から傍受していた通信記録を警察・検察へ提出します。

5.まだスパイが見つかりません。GCSBは改正法案のもと、さらなる傍受に励みます。

以降、1~5が繰り返されます。ちなみに、ここで述べた通信記録データベースはすでに実在します(後日ジョン・キー首相が、もしGCSBがこのような大規模の監視体制を運用したならば、彼とGCSB長官がともに辞職することになると 述べています。さらに、この辞職が実現することはないだろうと重ねて発言しています。この彼の発言を鵜呑みにすることなく、客観的かつ冷静に考えてみる と、国民がGCSBの業務を監視することなどできるはずがなく、そのような傍受が実施されたかどうか絶対に調べることができないことを見越した上での発言なので、ここでも政府が国民をバカにしていることがみてとれます)。


論点を極限まで絞ってさ らっと説明するとこんな流れになるかと思います(異論は認めますが反論は控えて頂きたい(笑))。繰り返しますが、スパイの風貌すらない人物をどうやって スパイと特定すればいいのか、まずこのあたりの手法があまりに曖昧で、過去に犯罪歴のある人々や、海外のポルノサイトの閲覧を趣味としている人々、ちょっ とした違法な商売や犯罪に加担している人々、まったく犯罪に無縁の人々など、「すわっ、自分が監視されるかもしれない」、と疑心暗鬼に駆られている人々が 増えているのは、まさにこの点につきると思います。もっと言えば、例えば、大学で知り合った教師や学生とメールを始めたところ、スパイにまったく縁がな かったあなた自身、そしてあなたの友人・知人がGCSBの傍受の対象になる可能性が完全に否定できないことです。

キ ム・ドットコム氏が人々へ訴えているように、ある日突然、警察が「あなたはスパイだ」という令状を突きつけ、あなたの家を強制捜査する日が来ないとも限り ません。彼の場合は、その情報収集すべてが違法でしたが、今回、このGCSB改正法案が施行されることにより、その捜査手法の多くは合法となります(8月14 日のキャンベルライヴでジョン・キー首相はこれを否定していますが、キム・ドットコム氏のあの一件があったからこそ今回の改正法案の整備が進められていたので彼の発言は明らかに矛盾しています。彼とジョン・キャンベル氏との会話を眺めていると、彼が純粋な子供のような考えを持っていることを再認識させられました)。

この改正法案によりニュージーランド国内に潜伏するスパイの通信傍受ができるのは好ましいこと かもしれませんが、(政府が躍起になって探しだそうとしている)そんなスパイがごく一般の人々とまったく通信しないという状況はほとんどあり得ないにもか かわらず、ニュージーランド政府はそのようには考えていないようです。ニュージーランド国民がこのGCSB改正法 案に反対するその理由を、ジョン・キー首相と政府が甘くみていることだけは間違いないと思います。


追記:GCSB関連でぜひ覚えておいてほしいのは、情報開示(注)が可能なのは政府が裁判所など公的機関へ情報を提供したときだけです。つまり、その情報をどのように収集して いたのか、どのように管理されているのかなど、裁判所へ提出するその証拠以外、追求されることがありません。GCSBが今回の改正法案の背後で企てている のは、国民すべての通信情報を監視し政策に沿った情報収集することが目的であって、万が一、それを指摘されても公へ向けて答える法的な義務がない、という ことに気づくべきだということです。これは、ジョン・キー首相が主張している、(改正法案により)GCSBが行う業務すべてが合法であるべきだという点と 合致しています。

注:インフォメーションアクト(Information Act)という法律の名の下に、政府に対し、要求する情報の開示を請求することができます。ただし、個人情報などはプライヴァシーアクト(Privacy Act)を盾にして、すべての情報が提供されないこともよくあります。案件によりますが、事情により裁判所がその情報を開示することがあるので、もしこの あたりで揉め事があるなら、情報開示に対し徹底的に請求すべきです(笑)。


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